【色と矩形のコンポジション】

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閑静な住宅地にある実家の建替えとしてこの住宅は計画された．クライアントはこう切り出した．3度目の家づくりです，私たちだけの為の住宅を希望します．と．非常に稀有なご要望であった．アートを愛し，「色」を愛してらっしゃった．そして，住宅自体を原色で構成してほしいと切望された．モンドリアンを筆頭に多種の作家に精通されており，絵画から多くの生命力を感受されていた．

 

敷地は通常の区画よりも一回り大きく，建築と外部空間の豊かな関係性が生まれる予感がした．丁寧にクライアントの言葉を紡ぎながら，15度を基準とした角度をそれぞれの矩形平面に与え，空間を結節してゆくこととした．この様々な角度により，建築と隣地境界線緒間には不整形な庭が生まれ，それぞれに異なる趣の外部を獲得した．一部は実家で大切にされていた植栽を改めて植え直すこととなった．

 

各矩形平面には異なる気積と，光の性質が与えられ，各ヴォリュームは多様な場を形成している． やや長めの薄暗いポーチを抜け，光に導かれるようにギャラリーとなる長い廊下を抜ける．結節点となる部分には小階段を与え，ようやく玄関へと至る．ふと見上げると，瀟洒な階段が掛けられ，その両側には諸室への4色の扉が向かいあう．原色を与えられた階段に導かれた上階にはキッチン，ダイニング，リビング，書斎，和室が階段を纏うように配置されている．そこには原色が注意深く与えられ，色と形が独立しながら緊張感を生み出している．正に色と矩形の戯れであり，コンポジションとして成立させている．

 

この様々な構成部材から組み立てられる空間は無二であり，緊張感に包まれながらも，人の根源的な生命力・活力を生み出す場となっている．まさにアートとともにあるクライアントの為だけの住宅となった． 床，壁，天井，広さ，高さ，距離，光，影，素材，色，絵画，照明，家具，階段，手摺，開口部，景色，外部空間・・・と建築構成要素をそれぞれ等価に扱いながら組み立てられている．これら構成部材が一つでも欠けると均衡が崩れる，絶妙なバランスの上に成り立った緊張感のある住宅となった．